日本酒の製造方法
今回は日本酒のつくり方を解説します。
日本酒は原料処理→製麹→酒母(しゅぼ)→醪(もろみ)→上槽(じょうそう)の順番で製造されます。
それぞれの工程を順番に説明していきます。
1.原料処理
原料処理は精米、洗米・浸漬、蒸米の3つの工程に分けることができます。
精米
玄米の外側にはタンパク質、脂肪、ビタミンなどが多く、お酒の香り、味、色合いに悪い影響を与えます。
それらを取り除くために精米は行われます。
タンパク質が多いと雑味が増え、脂質はお酒のよい香りを抑制してしまいます。
お米を削れば削るほどその成分は少なくなり、スッキリした味わいのフルーティな香りのお酒になります。
お米の削り具合を数値化したものが精米歩合です。
精米歩合は精米した後、残った部分を表します。
精米歩合によって味、香りは大きく変わりますので、日本酒を買うときやお店で飲むときの選ぶ基準の1つにできます。
洗米・浸漬
洗米はお米を洗って表面に付着した糠や米くずを取り除く作業です。
機械を使って水流で洗う方法と手作業でお米を洗う方法の2つが主流になります。
後者は主に高級酒を造る際に行われます。
浸漬は洗米したお米を水に漬けて水分を吸収させる工程です。
水分の吸収率によってお米の蒸しあがりが変わり、酒質にも影響してきます。
場合によっては水に漬ける時間を秒単位で変化させることもあるほどです。
蒸米
浸漬したお米を蒸気で蒸します。
蒸すことでお米に含まれる生のデンプンが麹の酵素の作用を受けやすい形に変わります。
蒸米の仕上がりは後々の酒造りに影響を与えるので非常に重要な作業です。
適度な吸水率を持ち、弾力性のある、さばけのよい蒸米を目指します。
2.製麹
製麹とは麹造りのことです。
日本酒業界には「一麹、二酛、三醪」という言葉があり、一番目に麹、二番目に酛(酒母)、三番目に醪が大事であるという意味になります。
それほど麹は重要視されているのです。
麹は蒸米に麹菌を繁殖させてつくります。
その工程は約2日半に及びます。
完成した麹は発酵の過程において米のデンプンを糖化させる役割を担っています。
この糖を酵母が食べてアルコールをつくりだすのです。
また、タンパク質を分解して旨味に変える酵素や酵母の発酵を促す栄養素をつくり、日本酒の風味を形成するのに役立っています。
麹を使った甘酒や酵素の力に興味がある方はこちらの記事も読んでください!
3.酒母(酛)
酒母は「蒸米」、「麹」、「酵母」、「水」、「乳酸」によってつくられます。
「酒の母」と書くだけあって、日本酒づくりの土台となるような工程で、アルコールをつくる酵母を大量に培養することと、多量の乳酸を生成することが目的です。
次工程の醪では健全な発酵を行うために、多量の乳酸によって雑菌の増殖を抑え、数多くの優良酵母を働かせなくてはなりません。
酵母は乳酸をどのように得るかで2つに区分されます。
速醸系酒母は人工的に製造された乳酸を用いた酒母のことである。
乳酸を直接投入することで安全かつ短期間で酒母を育成することができる。
生酛系酒母は酒蔵に生息する乳酸菌を取り込んでつくられる酒母です。
乳酸菌がつくりだす乳酸で酒母を酸性にします。
天然の乳酸菌を相手にしているので速醸系酒母より手間と時間がかかり、雑菌が繁殖するリスクが高いです。
生酛系酒母を用いた日本酒は旨味や酸味が強い味に、速醸系酒母は淡麗な味わいになる傾向があります。
4.醪
醪は蒸米、麹、酒母、水を混ぜ合わせ、発酵させてつくります。
粘度の高い白濁した液体で、日本酒になる手前の段階です。
醪の一般的な製造方法は三段仕込みといいます。
仕込みは原料を混ぜ合わせて醪をつくることで、三回に分けて行うので三段仕込みです。
一度に原料を全て混ぜ合わせてしまうと発酵が急激に進み、酵母の増殖が追い付かなくなります。
また、酒母の酸が薄まり、雑菌の繁殖を招く危険性もでてきます。
酵母を安全に育成するために様子を見ながら三回に分けて仕込んでいくのです。
健全に発酵した醪は濾すことで酒粕と分離して日本酒になるので、醪が日本酒の味や香りに与える影響は非常に大きいです。
醪の品温経過や原料である蒸米、麹、酒母、水によって味や香りは複雑に変化します。
各酒蔵は目標の酒質から逆算して蒸米、麹、酒母、醪の製造方法を考え、原料を選定しているのです。
5.上槽
上槽とは発酵し終えた醪を酒粕と日本酒に分離する作業のことです。
通常は酒袋に醪を詰め、圧力をかけて搾っていきます。
かつてはどこの酒蔵も槽(ふね)と呼ばれる道具を使って日本酒を搾っていたことから上槽と呼ばれています。
現在では槽以外の様々な方法でも日本酒は搾られているのでいくつか紹介します。
槽搾り
画像は槽搾りで最もよく使用されている佐瀬式吟醸搾り機です。
槽搾りは酒袋と呼ばれる化学繊維できた細長い袋を積み重ねていき、最初は自重で日本酒が垂れてきて、垂れ終わったら上から大きな板で押していきます。
自重で垂れている部分は当初は白濁しており荒走りという。
白濁している部分はオリといわれ最もフレッシュで香り高い刺激的な味わいである。
オリがなくなり少しずつ日本酒の色が澄んでくる。
中と呼ばれ、日本酒で最もおいしい部分とされる。
自重での垂れが少なくなると圧力をかけて押し始める。
ここから搾り切るまでの間を責めと呼ばれ、荒走りとは違う濃厚で複雑な風味が特徴である。
通常の日本酒は荒走り、中、責めがブレンドされて瓶詰するので、それぞれを単体で商品にしているのは非常に珍しいです。
袋吊り
袋吊りは画像のように酒袋に醪を詰めて、圧力をかけずに自重で滴る酒を集める方法です。
全く圧力を掛けないので香りがよくきれいな味わいになります。
圧力を掛けない分、収量が少なく、手間もかかりますので鑑評会の出品酒のような特別な高級酒に採用されます。
袋吊りで上槽した日本酒はとても貴重で市場にはほとんど出回りません。
自動圧搾機
自動圧搾機は日本中の酒蔵で最も採用されている上槽機器です。
高い圧力を掛けて日本酒と酒粕を分離します。
槽搾りや袋吊りと比べると同じ醪からたくさんの日本酒を搾れます。
短時間で搾り切るので日本酒が参加しづらいというメリットもあります。