醸造アルコールの正体が気になる方は必見。「日本酒に醸造アルコール、この厄介な問題」を読んでみた。
「日本酒に含まれる醸造アルコールは次の日残って二日酔いになりやすい」
どこかで聞いたことがある方はいるのではないでしょうか。
筆者も日本酒を飲みすぎて二日酔いになったことはあります。
では実際に日本酒に含まれる醸造アルコールが原因なのでしょうか?
そもそも醸造アルコールとは何なのでしょうか?
そんな疑問を解決するのに最適な本を見つけました。
元居酒屋の店主、大沼章宏さんが書いた本なのですが、日本酒ファンですら理解できていない醸造アルコールという物質と日本酒の関係について詳細に述べられています。
筆者もけっこうな日本酒好きですがこの本を読んで考え方が変わりました。
大人の読書感想文始めます。
醸造アルコールは悪ではない
醸造アルコールは体に悪い物質ではありません。
筆者も日本酒の飲みすぎで二日酔いになったことがありますが、醸造アルコールが原因ではなく、単にアルコールの摂取量が過剰であっただけです。
焼酎であろうとウィスキーであろうと飲みすぎれば二日酔いになります。
醸造アルコールは体に悪い物質ではないと書きましたが、そもそもアルコール自体が過剰摂取すれば体にはいい影響を与えません。
では醸造アルコールがどのような物質なのか解説していきます
醸造アルコールとは
不自然なものと捉えられる醸造アルコール
醸造アルコールは添加物になるのですが、世の中には添加物というよくわからないものは避けようとする傾向があります。
「天然」、「自然」という言葉を好ましく感じ、醸造アルコールの入っていない日本酒「純米酒」=「自然」と捉える方もいます。
筆者もそういう時期がありました。
醸造アルコールの何が良くないのと聞かれると明確な答えがなかったのですが。
純米酒の何が好きだったのか考えると一つは酸味です。
醸造アルコールの入っている日本酒は淡麗な味のものが多いです。
純米酒のふくらみがあり後味に残る酸の余韻を好んでいたのですが、中にはふくらみがいきすぎて雑味となって飲めない酒質のものもありました。
今では醸造アルコール添加の有無に関係なくおいしい日本酒を飲むというスタンスです。
醸造アルコールの正体
「醸造アルコールって何ですか」と聞くと、酒蔵や酒販店で働いていても答えられない人は多いです。
実態がわからないが故に不自然な感じは増しますね。
醸造アルコールは極めて純度の高いアルコールであらゆる種類に含まれるエチルアルコールになります。
主原料は砂糖を精製するときにできる廃糖蜜です。
廃糖蜜をアルコール発酵させて連続蒸留し、アルコール度数を95%まで高めれば醸造アルコールは完成します。
これはサトウキビからつくられるラムと全く同じです。
正確にはラムもサトウキビから砂糖を精製するときに出る廃糖蜜から造られています。
ちなみに廃糖蜜という言葉も「廃」という文字がイメージを悪くしそうですが、英語ではモラセスと呼ばれ調味料などとして使われています。
以上より醸造アルコールはおかしな不純物ではなく、信用度の高い純粋なアルコールであることがわかりました。
では醸造アルコールを添加する目的とは何なのでしょうか?
巷でささやかれる醸造アルコールの悪い噂
醸造アルコールは味や香りにクセのない液体ですので、添加の目的が増量するためという話を聞きます。
また冒頭にも書いたように悪酔いの原因になると言う人もいます。
いったい何が本当なのでしょうか。
増量が目的なのか
特定名称酒においては法律上、醸造アルコールは白米重量の10%まで添加が認められています。
白米重量と言われると難しいですが、一升瓶(1800ml)に換算すると72mlです。
増量を目的にするなら少なすぎる量でしょう。
特定名称酒以外の日本酒(一般的に普通酒と呼ばれる)には白米重量の半分までと法律で定められています。
一升瓶に換算すると360ml、増量目的なら全量添加するはずですが、単に薄くて辛い日本酒になりそうです。
そもそも日本酒の生産量が年々落ちているのに増量を目的とする必要があるのか疑問を持ちます。
特定名称酒について知りたい方はこちらも読んでください
醸造アルコールは悪酔いの原因か
実は過発酵を防ぐために味噌、醤油、味醂にも醸造アルコールが入っています。
悪酔いする成分が入っているとすれば使用するのは危険です。
醸造アルコール添加の日本酒を飲んで悪酔いした人は単なる飲みすぎでしょう。
醸造アルコール添加の本当の目的
日本酒の香りを良くする
米、米麹、水を合わせて発酵させた醪を搾って酒粕と分離することで日本酒は完成します。
困ったことに醪の良い香りは酒粕に吸着しやすいのです。
醸造アルコールにはいい香りを日本酒に引き留める効果があります。
アルコール度数を上げ、保存性をよくする
日本酒はアルコールを含んでいるので腐ることはありません。
ですが味の劣化はありえます。
醸造アルコールは日本酒のアルコール度数を上げて劣化を防ぐ役割を担っています。
味わいをなめらかにする
日本酒は米を溶かして、それを使って酵母がアルコールを生み出しています。
醸造アルコールを添加しない純米酒では添加しない分を補うために、より米を良く溶かす必要があります。
ですが米の溶けすぎは雑味成分を生成する可能性を含んでいます。
米の溶けすぎを避けて雑味成分の生成を抑えようとするとアルコール度数が下がり、保存性が悪くなる・・・
そこで醸造アルコールを添加することで保存性を担保しながら、きれいな日本酒を実現しているのです。
おいしい普通酒を知りたい方はこちらも読んでください
おわりに
今回は醸造アルコールの良い点をつらつらと書いてきましたが、もちろん純米酒にも良い点はたくさんあります。
技術が進化して純米酒でもきれいな日本酒を造っている酒蔵はたくさんあります。
米を溶かさず低アルコールできれいな日本酒を実現させるために理解ある良質な酒販店は管理に細心の注意を払ってくれます。
そうして日本酒業界は年々レベルが上がって質の良い日本酒が入手しやすい状況にあります。
ただ日本酒の技術の進化、良質な管理を実現する一方で日本酒の値段が上がっているのも事実です。
筆者は懐事情が決して豊かではないので、価格の抑えられた良質な醸造アルコール添加の普通酒は非常にありがたいです。
価格の低い普通酒ではあまり利益が出ないという話しも聞いたことがあります。
そんな商品でも消費者のためにと尽力してくださる酒蔵さんには感謝でいっぱいです。
以上で大人の感想文は終了です。
「日本酒に醸造アルコール、この厄介な問題」は日本酒ファンやこれから日本酒を趣味にしたいという人には是非読んでいただきたいです。
この本が気になる方はこちら