「日本酒、米づくりから始める」を読んでみた。米作りから関わる酒蔵の魅力とは。
一昔前の吟醸酒ブームを超えて、酒蔵の酒造りは多様化が進んでいます。
地元の農家と組んで酒米をつくってもらったり、自社で田んぼを持ち酒米を栽培したりする酒蔵があらわれています。
吟醸酒ブームの時代は全国新酒鑑評会で賞のとれる日本酒が良いとされてきました。
本書に登場する泉橋酒造株式会社、浜嶋酒造合資会社、株式会社せんきん、秋鹿酒造有限会社、菊の里酒造株式会社、合名会社渡辺酒造店はそれとは別の路線を歩み、米の旨味を活かした日本酒造りを掲げています。
「日本酒、米づくりから始める」は米づくりから日本酒造りを始める酒蔵の魅力やその意味について書かれた本です。
なぜ日本酒を造るのに米づくりから関わるのでしょうか。
3つの理由があります。
- 米の特性を把握しやすい
- 日本酒造りの原点に返る
- 農地を守る
1つずつ解説していきます。
酒米の特性がわかる
食用米と同じように酒米には名産地があり、酒蔵は良い酒米を求めて全国を奔走していました。
全国から酒蔵に届いた酒米は生産者の顔が見えません。
自然の産物ですので酒米は毎年出来が違います。
つくる土地、気候、生産者、さらには田んぼの1枚1枚でも酒米の出来は違います。
地元の契約農家であれば田んぼごとにデータが収集可能ですし、直接会話することで来季に向けて改善策を見出すことができます。
自社で栽培したり、地元の契約農家に造ってもらったりしている酒蔵はその微妙な違いを把握することにまでこだわっています。
日本酒造りの原点に帰る
トラックのなかった時代には日本酒造りは地元のお米、地元の水で仕込まれていました。
当然地元でつくるお米には酒蔵の仕込み水と同じ系統の水が使われています。
日本酒の80%を占める仕込み水の質は酒造りに大きな影響を与えます。
地方ごとに日本酒に特徴がある要因の1つは仕込み水の違いです。
それほど重要な水質は米づくりにも少なからず影響しています。
以前、兵庫産の山田錦を使ったことがありましたが、向こうの水で育った山田錦にうちの水を吸わせてもうまくいきませんでした。よその山田錦の特等米より、地元の山田錦の二等米の方が仕込み水との相性は良いようです。
と本書の中で株式会社せんきんの蔵元が語っています。
理想の日本酒を目指して酒米と水と日本酒の関係にまでさかのぼることが「原点に帰る」ことなのです。
農地を守る
農家の高齢化に伴って年々、お米がつくられない休耕地が増えています。
休耕地は放っておくと、雑草が生え放題の荒れ地になってしまいます。
地元の農家と組んで酒米をつくる取り組みをしていると、農業をやめる人たちから農地を使ってほしいと声がかかります。
酒米づくりに酒蔵が関わることは地域の農業を守ることにつながっているのです。
また契約している農家にただ酒米をつくってもらっているだけでなく、相互に情報を交換して酒米の研究をしているのでノウハウが蓄積します。
酒米は食用米と違って生育が非常に難しいので、新規参入者があらわれたときのためにもデータの蓄積は重要です。
おわりに
インターネットが普及し情報があふれかえっている現代において、消費者はモノを購入するときによく吟味するようになりました。
そのモノの特性や機能だけでなく、裏側にある物語まで購入するときの大事な情報になります。
日本酒も例外ではありません。
おいしいだけでなく、日本酒ができるまでのストーリーがアテになるんですね。
「日本酒、米づくりから始める」に登場する酒蔵は日本酒の需要の減少からピンチに追い込まれながらも、米づくりから関わるという視点に活路を見出し、現在では立ち直りさらなる飛躍を目指しています。
自分の住む町で最高の酒米をつくって、最高の日本酒を醸すってロマンがありますよね。
酒米からこだわった米の旨味がたっぷりの純米酒をぜひ飲んでみてください。
「日本酒、米づくりから始める」に登場する酒蔵の日本酒が飲みたい方はこちら
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