日本酒の酒蔵の数が日本一。新潟の普通酒はレベルが高い。
地酒王国・新潟
日本で一番酒蔵の数が多い新潟。
新潟には全部で89蔵あり、日本酒の消費量も日本一になります。
久保田、八海山は日本酒に興味がなくても聞いたことがあるのではないでしょうか。
新潟は米の生産量が日本一、たくさんの山に囲まれていて名水も多いです。
米と水からできている日本酒の酒蔵が多いのも納得できます。
晩酌酒がおいしい
全国新酒鑑評会の金賞受賞酒蔵の数が毎年多く、吟醸王国のイメージがありますが、その技術の高さは普通酒にも反映されています。
新潟は日本酒の消費量が日本一ですが、吟醸酒のような高級酒を毎晩飲み続けるのは、経済的に余裕がないと難しいでしょう。
各酒蔵が吟醸造りの技術の高さを普通酒にも活用し、おいしくリーズナブルな晩酌酒がぞくぞくと登場したわけです。
今回は安くておいしい新潟の普通酒を紹介していきます。
八海山(八海醸造株式会社)
・原材料:国産米、醸造アルコール
・精米歩合:60%
・アルコール度数15.5度
まさに新潟淡麗を表しているようなスッキリ、キレのよい日本酒です。
ラベルを見ると精米歩合60%と記載されています。
特定名称酒の区分では吟醸酒と記載しても問題のない精米歩合です。
普通酒に精米歩合60%のお米を使用しているなんて贅沢ですね。
特定名称酒や普通酒について詳しく知りたい方は以下の記事も併せて読んでください。
八海醸造は日本酒だけでなく、焼酎やビールの製造も行っている酒蔵です。
朝日山 百寿盃(朝日酒造株式会社)
原材料:米、米麹(ともに産地は新潟)、醸造アルコール
精米歩合:記載なし
アルコール度数:15度
朝日酒造は久保田で有名な酒蔵です。
飲み口はすっと入りますが後にほのかに旨味が感じられます。
50度程度のお燗にすると辛さが際立つ日本酒です。
厳選辛口 吉乃川(吉乃川株式会社)
原材料:米、米麹(ともに産地は新潟)、醸造アルコール
精米歩合:65%
アルコール度数:15度
日本酒度:+7
酸度:1.2
日本酒度+7なのにあまり辛さが際立たないことに驚きました。
日本酒は日本酒度が高くなればなるほど糖が少なくなり、辛く感じやすくなりますが、キレのよい旨味と見事に調和しています。
常温やぬるめのお燗がよい日本酒です。
八海醸造と同じく、ビールや焼酎の製造も行っている酒蔵です。
吉乃川のある摂田屋は醬油屋や味噌屋があり、古くからの発酵の町になります。
なかでも吉乃川は古株で470年以上の歴史を誇ります。
おわりに
今回は新潟の酒蔵の中でも有名な3社を選びました。
全部で89の酒蔵がひしめき合う新潟の地酒をぜひ飲んでいただきたいです。
特に普通酒は安価で入手しやすい日本酒ですので初心者の方でも手を出しやすい。
でしょう。
たくさんの種類の日本酒を飲みたい方にはワンカップでいろいろ試すのがおススメです。
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日本酒の熟成とは。火入れ前後の違いやおいしく飲める期間は?
食べ物を購入する際に賞味期限を確認する人は多いでしょう。
日本酒に賞味期限が表示されているかご存じですか。
開栓前と開栓後の熟成やおいしく飲める期間、日本酒の賞味期限表示について解説していきます。
日本酒に賞味期限表示はない
日本酒には賞味期限表示がありません。
アルコール度数が高く腐食が進みにくいため長期間の保存が可能だからです。
賞味期限の代わりに製造年月が記載されています。
製造年月は日本酒を瓶詰した月を表しています。
賞味期限についてはこちらをご覧ください。
日本酒をおいしく飲める期間
日本酒の腐食は進みにくいですが時間とともに熟成します。
開栓前と開栓後、管理の仕方、日本酒の酒質や火入れの有無によっても、味の変化に違いが出てきます。
日本酒は火入れの回数で分類される
日本酒は上槽(醪を搾って日本酒を生成する作業)後、火入れという作業を行います。
殺菌と酵素の活動を止めることが火入れの目的です。
火入れをするタイミングや回数によって名称が変わります。
通常の日本酒は上槽→ろ過→火入れ→貯蔵→火入れ→瓶詰を経て製品になります(ろ過の有無は名称に関係ないので上図では割愛しています)。
火入れを一度もしないと生酒、貯蔵前に火入れを行うのが生詰め酒、火入れせずに貯蔵すると生貯蔵酒です。
分類ごとのおいしく飲める期間
日本酒がおいしく飲める期間の目安は以下になります。
通常の日本酒 | 生酒(生貯蔵酒・生詰め酒) | |||||||||
開栓前 | 製造年月から1年 | 製造年月から半年以内 | ||||||||
開栓後 | 開栓後1か月以内 | 開栓後7~10日 | ||||||||
保管場所 | 風通しの良い光の当たらない場所 |
冷蔵庫 |
あくまで目安なのでこの期間を過ぎても大きく熟成しないこともありますし、より短期間で味を損ねてしまう場合もあります。
通常の日本酒の熟成は主に含まれる成分の化学変化が原因です。
変化の動向を予想するのは困難です。
さらに生酒は酵素の働きによる変化が加わります。
非常に複雑ですが、あえて日本酒の変化や熟成を楽しむ人もいます。
日本酒は時間が経つとどう変化する?
日本酒は上槽直後から香りや味や色が絶え間なく変化します。
生酒の期間は主に残存している酵素の働きで含有する成分をブドウ糖やアミノ酸に分解されます。
火入れ後は搾った直後に感じられた荒々しさがまるくなり、日本酒の色も次第に濃くなっていきます。
熟成しすぎると苦みが出たり、老香(ひねか)といわれる嫌な香りが出たり、日本酒は悪い方向へ変化するのです。
日本酒の熟成に最も影響を与えるのは温度で、温度が10℃上がると着色のスピードが3~5倍になります。
よい熟成をした日本酒はナッツやカラメルのような香りがし独特なコクと深みが感じられます。
熟成の面白さ
前述したように温度によって熟成のスピードは変わります。
火入れは日本酒の温度を65℃程度まで上げることで殺菌を行っているので、熟成は進みます。
火入れの目的は殺菌ですがあえて熟成を促すために行う面白い日本酒もあります。
曙酒造 天明 純米 亀の尾 2回火入れ
原材料:米、米麹
使用米:会津坂下産 亀の尾
精米歩合:65%
アルコール度数:16度
日本酒度:-1
酸度:1.6
熟成を目的としてあえて2回火入れを行っています。
ナッツやカラメルのような香りや深いコクを出すためというよりは、新酒や若い日本酒の荒々しさをとって飲みやすくするための火入れだと感じました。
程よく甘さ中心の旨味が感じられ、余韻はあるけど雑味はないです。
このように各酒蔵は様々な意図をもって日本酒を販売しています。
生酒を熟成させている酒蔵もあるくらいです。
製造年月はあくまで目安なのであまり過敏になりすぎず、気楽に日本酒を楽しんでください。
日本酒に賞味期限はあるのか。ラベルに記載されている製造年月とは何か。
しばらく前にもらった日本酒を開栓してみたら中身が黄色くなっていました。
賞味期限はどこにも記載されていません。
この日本酒は飲んで問題ないのでしょうか。
日本酒の賞味期限はどれくらい?
実は日本酒には賞味期限の表示義務がありません。
ある程度のアルコールを含むお酒は殺菌作用があり、長期保存が可能となっています。
ビールには賞味期限が表示されていますが、それは気が抜けてしまうからです。
日本酒のラベルには製造年月を表示する義務があります。
製造年月は賞味期限ではなく、瓶に詰められた日を指します。
日本酒が造られた年を表す言葉は醸造年度になります。
なぜ製造年月が必要なのか
なぜ日本酒には賞味期限がないのに製造年月の表示義務があるのでしょうか。
日本酒は出荷する段階で課税されるため、税務署からすると醸造年度より製造年月の方が大事です。
法律上の兼ね合いで製造年月の表示が義務化されていますが酒蔵側から考えるとどうでしょう。
日本酒は上槽(醪を搾り、日本酒を生成する作業)後に、貯蔵、火入れ、ろ過などの工程を経て瓶詰されます。
搾った直後が一番おいしいとは限らず、各酒蔵は飲み頃を見極めて瓶詰します。
その日が製造年月です。
また品質の安定を図るために醸造年度をまたいでブレンドする場合もありますので、醸造年度ではなく製造年月を表示しているのかもしれません。
もちろん酒蔵によっては醸造年度を記載したり、ブレンドせずに瓶詰したりもします。
以上を踏まえると製造年月は適切な飲み頃を表していると考えることもできます。
製造年月は飲み頃といいましたが時間が経つとどうなるのでしょうか。
賞味期限がないからいつまでも味は変わらないのでしょうか。
気になる方は下記のブログに賞味期限やおいしく飲める期間について記したので併せて読んでください。
日本酒の保存方法
日本酒は製造年月を過ぎると味が劣化するものではありません。
おいしく飲める一つの指標であって、熟成によってより味がよくなることもあります。
瓶詰後10年以上熟成させて発売する蔵もあり、日本酒の秘める可能性は未知数です。
ただし適切な保存方法をしていないと確実に劣化し、酸味を帯びたり、嫌な香りがでてきたりします。
適切な保存方法
基本的には20℃以下で光の当たらない風通りのよいところでの保存をおすすめします。
日本酒は紫外線や光によって黄色く変化します。
高温多湿によっても化学変化が起こり味が劣化します。
火入れをしていない生酒は酵素の働きや酵母の活動が止まっていませんので味の変化が早く冷蔵庫での貯蔵をおすすめします。
貯蔵するときワインは横にしますが、日本酒は酸化を防ぐために立てた方がよいです。
横にすると空気に触れる面積が大きくなるからです。
ですが日本酒の瓶は大きく冷蔵庫に置くスペースがないという方が多いのではないでしょうか。
筆者は冬になると日の当たらない家の廊下に置いています。
こだわる人は日本酒用に冷蔵庫を買われるみたいですね。
開栓後は早く飲み切る方がよい
いくら保存方法がよくても一度開栓すると劣化していくのみです。
製造年月に関わらず早めに飲み切ることをおすすめします。
火入れをしている日本酒は開栓してから1か月くらいを目安に、生酒は1週間程度がよいです。
ワインでよく使われるバキュバンで空気を抜いて保存するとかなり劣化を抑えることができます。
1500円程度で買うことができるので試してみる価値はありです。
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風味の悪くなった日本酒の使い道
一番は料理に使うことです。
市販の料理酒と比べ、日本酒を使用した方が米由来の旨味が感じられます。
またご飯を炊くときに日本酒を少し入れるとふっくらツヤツヤな炊き上がりになります。
目安は1合につき大さじ1/2です。
お風呂に入れる(200ml程度)と血行促進や美肌効果もあります。
有名酒蔵が多い日本酒どころ・福島
東北は有名な日本酒の酒蔵が多いです。
特に福島は2012年~2020年における全国新酒鑑評会(日本酒のコンテスト)の金賞受賞酒蔵の数が日本一です(2019年は開催されていない)。
東日本大震災で深刻な被害から復興し、福島の酒造りは日々進化しています。
福島の酒蔵では県独自の酵母や酒米が開発され、個性ある酒造りが行われています。
それでは最近飲んだ福島の日本酒を紹介します。
だぢゅーロ万 純米吟醸 二回火入れ(花泉酒造合名会社)
・使用米/精米歩合
麹米 五百万石(会津産)/55%
掛米 夢の香(会津産)/55%
ヒメノモチ(会津産)/55%
・アルコール度数 15℃
・保存は15℃以下推奨
ヒメノモチは使用割合とお米の名前からもち米四段仕込みに使用されたと予想します。
2020酒造年度から精米歩合が60%→55%に変わり、より洗練された日本酒になりました。
その土地の米、水を使って地元の人間が伝統のもち米四段で醸すのがロ万のこだわりです。
精米歩合55%らしいスッキリした飲み口、後味にもち米四段由来のジューシーな甘さ。
香りは穏やかですがほのかにバナナ、メロンを感じます。
この日本酒は10℃くらいに冷やすか、常温がいいですね。
50℃くらいのお燗でもキレの良い旨味が感じられたまらないです。
天明 槽しぼり 純米火入(曙酒造株式会社)
・使用米/精米歩合
麹米 国産米(会津坂下産)/50%
掛米 国産米(会津坂下産)/65%
・アルコール度数 16℃
上記二つを踏まえ、飲み口は軽快に後味に甘さ主体のきれいな旨味の日本酒を表現したと予想します。
香りは穏やかですがほのかにバナナ、メロンを感じます。
この日本酒は常温~ぬるめのお燗がいいですね。
お燗は電子レンジでチンが簡単です。
ぬる燗のように微妙な温度調整が必要な場合は、50℃くらいのお湯を鍋に浅く張り、日本酒を入れた耐熱容器を浸けてゆっくり温度をあげることをおすすめします。
お湯をつくるのに手間がかかりますので、燗すけなら水を入れるだけで設定の温度まで上がりキープしてくれるのでとても便利です。
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天明 純米 亀の尾65 二回火入(曙酒造株式会社)
・使用米/精米歩合
亀の尾(会津坂下産)/65%
・酵母 協会9号
・日本酒度 -1
・酸度 1.63
・アミノ酸度 1.27
・アルコール度数 16℃
※酵母、アミノ酸度は曙酒造株式会社の公式facebookを参照
亀の尾は硬質で搾った直後はスッキリ、きれいな日本酒になりやすい酒米です。
熟成すると旨味が出てきて変化が楽しめます。
二回火入とありますが、火入は日本酒を加熱することで生酒を殺菌したり酵素の働きを停止したりする工程です。
日本酒の質の安定を図ることを目的としているのですが、曙酒造さんは違います。
火入をあえて二日連続で行うことで日本酒の熟成を狙っているのです。
飲み口は亀の尾らしいスッキリ感、二回火入によるものか後味にきれいな甘、旨、酸。
さらに熟成させたときの変化が気になります。
試しに燗をつけて冷蔵庫で急冷してみましたが旨味、酸味の角がとれて非常に飲みやすかったです。
おわりに
今回紹介した福島の日本酒はしっかり旨味を感じられるタイプでした。
旨味や酸味の強い日本酒は筆者の好むところですのでこれからもどんどん紹介していきます。
冒頭にも書きましたが福島は全国新酒鑑評会の金賞受賞酒蔵数が日本一のレベルの高い県です。
皆様もぜひ飲んでみてください。
日本酒の製造方法
今回は日本酒のつくり方を解説します。
日本酒は原料処理→製麹→酒母(しゅぼ)→醪(もろみ)→上槽(じょうそう)の順番で製造されます。
それぞれの工程を順番に説明していきます。
1.原料処理
原料処理は精米、洗米・浸漬、蒸米の3つの工程に分けることができます。
精米
玄米の外側にはタンパク質、脂肪、ビタミンなどが多く、お酒の香り、味、色合いに悪い影響を与えます。
それらを取り除くために精米は行われます。
タンパク質が多いと雑味が増え、脂質はお酒のよい香りを抑制してしまいます。
お米を削れば削るほどその成分は少なくなり、スッキリした味わいのフルーティな香りのお酒になります。
お米の削り具合を数値化したものが精米歩合です。
精米歩合は精米した後、残った部分を表します。
精米歩合によって味、香りは大きく変わりますので、日本酒を買うときやお店で飲むときの選ぶ基準の1つにできます。
洗米・浸漬
洗米はお米を洗って表面に付着した糠や米くずを取り除く作業です。
機械を使って水流で洗う方法と手作業でお米を洗う方法の2つが主流になります。
後者は主に高級酒を造る際に行われます。
浸漬は洗米したお米を水に漬けて水分を吸収させる工程です。
水分の吸収率によってお米の蒸しあがりが変わり、酒質にも影響してきます。
場合によっては水に漬ける時間を秒単位で変化させることもあるほどです。
蒸米
浸漬したお米を蒸気で蒸します。
蒸すことでお米に含まれる生のデンプンが麹の酵素の作用を受けやすい形に変わります。
蒸米の仕上がりは後々の酒造りに影響を与えるので非常に重要な作業です。
適度な吸水率を持ち、弾力性のある、さばけのよい蒸米を目指します。
2.製麹
製麹とは麹造りのことです。
日本酒業界には「一麹、二酛、三醪」という言葉があり、一番目に麹、二番目に酛(酒母)、三番目に醪が大事であるという意味になります。
それほど麹は重要視されているのです。
麹は蒸米に麹菌を繁殖させてつくります。
その工程は約2日半に及びます。
完成した麹は発酵の過程において米のデンプンを糖化させる役割を担っています。
この糖を酵母が食べてアルコールをつくりだすのです。
また、タンパク質を分解して旨味に変える酵素や酵母の発酵を促す栄養素をつくり、日本酒の風味を形成するのに役立っています。
麹を使った甘酒や酵素の力に興味がある方はこちらの記事も読んでください!
3.酒母(酛)
酒母は「蒸米」、「麹」、「酵母」、「水」、「乳酸」によってつくられます。
「酒の母」と書くだけあって、日本酒づくりの土台となるような工程で、アルコールをつくる酵母を大量に培養することと、多量の乳酸を生成することが目的です。
次工程の醪では健全な発酵を行うために、多量の乳酸によって雑菌の増殖を抑え、数多くの優良酵母を働かせなくてはなりません。
酵母は乳酸をどのように得るかで2つに区分されます。
速醸系酒母は人工的に製造された乳酸を用いた酒母のことである。
乳酸を直接投入することで安全かつ短期間で酒母を育成することができる。
生酛系酒母は酒蔵に生息する乳酸菌を取り込んでつくられる酒母です。
乳酸菌がつくりだす乳酸で酒母を酸性にします。
天然の乳酸菌を相手にしているので速醸系酒母より手間と時間がかかり、雑菌が繁殖するリスクが高いです。
生酛系酒母を用いた日本酒は旨味や酸味が強い味に、速醸系酒母は淡麗な味わいになる傾向があります。
4.醪
醪は蒸米、麹、酒母、水を混ぜ合わせ、発酵させてつくります。
粘度の高い白濁した液体で、日本酒になる手前の段階です。
醪の一般的な製造方法は三段仕込みといいます。
仕込みは原料を混ぜ合わせて醪をつくることで、三回に分けて行うので三段仕込みです。
一度に原料を全て混ぜ合わせてしまうと発酵が急激に進み、酵母の増殖が追い付かなくなります。
また、酒母の酸が薄まり、雑菌の繁殖を招く危険性もでてきます。
酵母を安全に育成するために様子を見ながら三回に分けて仕込んでいくのです。
健全に発酵した醪は濾すことで酒粕と分離して日本酒になるので、醪が日本酒の味や香りに与える影響は非常に大きいです。
醪の品温経過や原料である蒸米、麹、酒母、水によって味や香りは複雑に変化します。
各酒蔵は目標の酒質から逆算して蒸米、麹、酒母、醪の製造方法を考え、原料を選定しているのです。
5.上槽
上槽とは発酵し終えた醪を酒粕と日本酒に分離する作業のことです。
通常は酒袋に醪を詰め、圧力をかけて搾っていきます。
かつてはどこの酒蔵も槽(ふね)と呼ばれる道具を使って日本酒を搾っていたことから上槽と呼ばれています。
現在では槽以外の様々な方法でも日本酒は搾られているのでいくつか紹介します。
槽搾り
画像は槽搾りで最もよく使用されている佐瀬式吟醸搾り機です。
槽搾りは酒袋と呼ばれる化学繊維できた細長い袋を積み重ねていき、最初は自重で日本酒が垂れてきて、垂れ終わったら上から大きな板で押していきます。
自重で垂れている部分は当初は白濁しており荒走りという。
白濁している部分はオリといわれ最もフレッシュで香り高い刺激的な味わいである。
オリがなくなり少しずつ日本酒の色が澄んでくる。
中と呼ばれ、日本酒で最もおいしい部分とされる。
自重での垂れが少なくなると圧力をかけて押し始める。
ここから搾り切るまでの間を責めと呼ばれ、荒走りとは違う濃厚で複雑な風味が特徴である。
通常の日本酒は荒走り、中、責めがブレンドされて瓶詰するので、それぞれを単体で商品にしているのは非常に珍しいです。
袋吊り
袋吊りは画像のように酒袋に醪を詰めて、圧力をかけずに自重で滴る酒を集める方法です。
全く圧力を掛けないので香りがよくきれいな味わいになります。
圧力を掛けない分、収量が少なく、手間もかかりますので鑑評会の出品酒のような特別な高級酒に採用されます。
袋吊りで上槽した日本酒はとても貴重で市場にはほとんど出回りません。
自動圧搾機
自動圧搾機は日本中の酒蔵で最も採用されている上槽機器です。
高い圧力を掛けて日本酒と酒粕を分離します。
槽搾りや袋吊りと比べると同じ醪からたくさんの日本酒を搾れます。
短時間で搾り切るので日本酒が参加しづらいというメリットもあります。
特定名称酒とは。普通酒との違いは?
1.特定名称酒とは
「居酒屋で日本酒を注文しようとしたが、同じ銘柄が数種類あってどれを頼めばいいかわからなかった」、「以前飲んだ銘柄を別のお店で注文したら味が違った」という経験はありませんか?
一つの銘柄にはさまざまな種類があり、それらは特定名称酒や普通酒に分けられます。
特定名称酒とは本醸造酒、吟醸酒、純米酒などの名称で呼ばれ、国税庁が定める清酒の製法品質表示基準の要件を満たす高級酒です。
特定名称酒は原料、製法、香りや味わいなどの違いで以下8つに分類できます。
名称 | 原料 | 精米歩合 | 麴米の割合 | 香味などの要件 | |
本醸造酒 | 本醸造 | 米、米麴、 醸造アルコール |
70%以下 | 15%以上 | 香味、色沢が良好 |
特別本醸造 | 60%以下、または特別な醸造方法 | 香味、色沢が特に良好 | |||
吟醸酒 | 吟醸 | 60%以下 | 吟醸造り、固有の香味、色沢が良好 | ||
大吟醸 | 50%以下 | 吟醸造り、固有の香味、 色沢が特に良好 |
|||
純米酒 | 純米 | 米、米麹 | 指定なし | 香味、色沢が良好 | |
純米吟醸 | 60%以下 | 吟醸造り、固有の香味、色沢が良好 | |||
純米大吟醸 | 50%以下 | 吟醸造り、固有の香味、 色沢が特に良好 |
|||
特別純米 | 60%以下、または特別な醸造方法 |
香味、色沢が特に良好 |
特定名称酒を理解するポイントを2つ説明します。
1.1 醸造アルコールを添加しているか否か
醸造アルコールとは糖蜜からできている精製度の高いアルコールです。
貯蔵時の日本酒の腐敗を防ぐ、キレのあるスッキリした味わいにするなどの目的で使用されます。
これが原料として使用されていないと純米酒、使用されていれば本醸造酒、吟醸酒になります。
ただし、本醸造酒、吟醸酒の場合、添加量は白米1トンに対し、白米重量の10%までと酒税法で定められています。
1.2 精米歩合
精米歩合とはお米を削って残った部分を示す数値になります。
100%を玄米とすると60%精米は40%の部分を削り、60%残っている状態です。
お米は表層部にタンパク質が、中心にいくほどデンプン質が多いです。
タンパク質→アミノ酸→旨味のつよいお酒
デンプン質→ブドウ糖→スッキリした甘さのお酒
ざっくりとこんなイメージを持っています。
精米歩合60%以下になると吟醸、大吟醸、純米吟醸、純米大吟醸と名乗ることができ、数値が小さくなるほどスッキリ、きれいな味わいになりやすいです。
2.普通酒とは
特定名称酒は、精米歩合を表示すること、麹を白米総量の15%以上使用すること、農産物検査法上3等米以上のお米を使用することという規定があります。
米焼酎を醸造アルコールの代わりに添加した柱焼酎仕込み、水の代わりに日本酒を仕込みに用いる貴醸酒も普通酒に分類されます。
3.吟醸酒、本醸造酒、純米酒の味、香りの違い
3.1 吟醸酒
名称 | 原料 | 精米歩合 | 麴米の割合 | 香味などの要件 | |
吟醸酒 | 吟醸 | 米、米麴、 醸造アルコール |
60%以下 | 15%以上 | 吟醸造り、固有の香味、色沢が良好 |
大吟醸 | 50%以下 | 吟醸造り、固有の香味、 色沢が特に良好 |
吟醸酒は「精米歩合60%以下の白米、米麹、水および醸造アルコール(白米の10%以下)を原料として吟醸造りという製法で造られていること」、「清酒で固有の香味および色沢が良好なこと」が条件です。
吟醸造りとは、手間暇かけて白米をよく削り、突きハゼ型の固い麹と蒸米を用いて低温でじっくり時間をかけて発酵させる製法を指します。
フルーティな香りとスッキリした味わいが特徴です。
3.2 本醸造酒
名称 | 原料 | 精米歩合 | 麴米の割合 | 香味などの要件 | |
本醸造系 | 本醸造 | 米、米麴、 醸造アルコール |
70%以下 | 15%以上 | 香味、色沢が良好 |
特別本醸造 | 60%以下、または特別な醸造方法 | 香味、色沢が特に良好 |
本醸造酒は「精米歩合が70%以下の白米、米麹、水および醸造アルコール(白米の10%以下)を原料として製造されていること」、「香味や色沢が良好なこと」が条件です。
この条件を満たしていれば製造方法は普通酒と同様で構いません。
吟醸酒に比べて香りは穏やかで辛口なものが多いです。
3.3 純米酒
名称 | 原料 | 精米歩合 | 麴米の割合 | 香味などの要件 | |
純米系 | 純米 | 米、米麹 | 指定なし | 15%以上 | 香味、色沢が良好 |
純米吟醸 | 60%以下 | 吟醸造り、固有の香味、色沢が良好 | |||
純米大吟醸 | 50%以下 | 吟醸造り、固有の香味、 色沢が特に良好 |
|||
特別純米 | 60%以下、または特別な醸造方法 | 香味、色沢が特に良好 |
純米酒は「白米、米麹および水を原料とした日本酒」、「香味や色沢が良好なこと」が条件です。
要するに原料にアルコールが一切使用されていない日本酒になります。
アルコールによって成分が希釈されていないので、芳醇な味わいになりやすく、特に酸度が高い場合は酸っぱく感じやすいです。
4.特別本醸造と吟醸、特別純米と純米吟醸の違い
原料や精米歩合の条件は全く同じ。
違いは、吟醸、純米吟醸に見られる吟醸造りと特別本醸造と特別純米の特別な醸造方法の2つの言葉です。
吟醸造りは「手間暇かけて白米をよく削り、突きハゼ型の固い麹と蒸米を用いて低温でじっくり時間をかけて発酵させる製法」とされていますが、低温の具体的な温度や突きハゼの具合に定義はなく各蔵の判断によります。
特別な醸造方法は定義はなく、例をあげると、「山田錦100%使用」、「大吟醸並みの長期低温発酵」、「袋吊りで搾られた」などです。
それを満たしていれば精米歩合が60%以下でなくても「特別~」を名付けることができます。
「吟醸造りをすると華やかなフルーティな香り、スッキリした味わいを感じやすい」、「特別純米は純米よりはスッキリしているがあくまで純米らしいボディ感は感じられる」など、同じ原料、精米歩合だとしてもそのお酒のコンセプトを明確に区別するために特別本醸造、吟醸、特別純米、純米吟醸を使い分けている酒蔵さんも見られます。
逆に、「日本酒の規格による先入観で飲んでほしくない」とあえて特定名称酒を名乗らない酒蔵さんも増えています。
日本酒のラベルには何が書いてあるのか
1 日本酒のラベルには情報がたくさん
日本酒を買いに行くとスーパーやコンビニですら棚にたくさんの日本酒が陳列されていて何を基準に選んだらよいかわからない方は多いのではないでしょうか?
僕はラベルから読み取れる情報を参考にすることがあります。
下の写真をご覧ください。
福島県の曙酒造株式会社「天明 槽しぼり 純米火入れ」のラベルです。
上が表、下が裏です。
裏にはその日本酒の情報がたくさん記載されています(特に黒枠の部分)。
それぞれの用語を順を追って解説していきます。
その前に一つ気になることが。
下の写真のには一番大きな文字で「清酒」と記載されていますがこのお酒は「日本酒」ではないのでしょうか。
結論から言いますと、どちらも中身は同じお酒なのですが、定義に若干の違いがあるようです。
辞書によると日本酒は「日本古来の酒。清酒、合成酒、みりんなど」、清酒は「水と米を原料に使用した濁っていない酒」と説明されています。
清酒は日本酒の一部なのですね。
一方で国税庁は「『清酒』とは、海外産も含め、コメ、米こうじ及び水を主な原料として発酵させて濾したもの、『清酒』のうち、『日本酒』とは、原料の米に日本産米を用い、日本国内で醸造したもののみを言う。」と定義しています。
どちらにも共通しているのは水と米を原料(米こうじも原料は米です)にしている酒ということですね。
ただ辞書の定義ですと、日本酒に焼酎や合成酒なども含まれてしまい区別しづらいので、この記事では国税庁の定義する酒を日本酒と呼ぶことにします。
2 日本酒の専門用語を解説します
2.1 製造者
そのお酒を製造している会社の名称です。
会社名とお酒の名前が同じ場合が主でしたが、最近はセカンドブランドとして全く別の名称で販売する酒蔵さんが増えています。
日本酒を買い慣れていない方はまずは耳にしたことがある銘柄を選ぶのも良いかと思います。
有名銘柄は人気があり、入手困難な場合が多いですが…
また、会社名と共に住所が記載されています。
県や地方ごとにお酒の味に特徴やクセがあり(新潟は淡麗、西日本のお酒は濃い口のなど)、それを基準にするのも面白いですね。
ただ、現在は技術が進み、地方ごとの特徴というのも一概に言えなくなってきていますので、そのあたりは別記事で書かせていただきます。
2.2 原材料
米、米こうじ、醸造アルコール(写真のラベルには記載されていません)が主ですね。
今回は米は国産米としか表示されていませんが、品種を明らかにしている酒蔵もあります。
有名どころですと山田錦、五百万石、雄町などなど。
僕のイメージですと五百万石は淡麗、雄町は濃厚、山田錦はその間くらい。
自分の好みと合うお米を使った日本酒を選ぶのもアリですね。
2.3 精米歩合
写真のラベルには精米歩合65%と記載されています。
精米歩合はお米を精米して(削って)残った部分を表す数値で、35%削って残った部分を日本酒の製造に使用していることになります。
一般的には小さければ小さいほどスッキリし、大きければ大きいほど芳醇な味わいになりやすいです。
スッキリした味わいの方が飲みやすそうと日本酒初心者の皆様は思われたでしょう。
悲しいことに精米歩合の小さい日本酒は値段が高い場合が多いです。
お米を削れば削るほど労力も時間もかかります。
お米が削られ小さくなるほど、つくることができる日本酒の量は少なくなります。
どの酒蔵さんも精米歩合の小さい日本酒は高い値段で売らざるを得ないのです。
2.4 アルコール度数、日本酒度など
「アルコール度数」は日本酒に含まれるアルコールの割合になります。
この数値が大きいほどビリビリと刺激的な味わいになりやすいです。
上の写真にはありませんが、「日本酒度」という甘辛を表す数値も記載されていることもあります。
マイナス、プラスで表しますがマイナスほど甘い、プラスほど辛いのが一般的です。
ごく稀ですが「酸度」という言葉が載っていることがありますが、文字通り数字が大きいほど酸味が感じられます。
2.5 その他
黒枠以外の部分にはそれぞれの酒蔵さんからのメッセージが書いてあったりします。
写真のラベルからは地元のお米を使って丁寧につくった日本酒であることが読み取れます。
いかにもおいしそうですよね!
表のラベルのカッコよさや裏のメッセージを読み直観で購入することを「ジャケ買い」と個人的に呼んでいますが(ジャケット買い、略してジャケ買い)、」意外とおいしいお酒に出会えることが多いです!!
3 普通酒?純米酒?名称による違い
写真の表ラベルには「純米 火入」と書いてあります。
純米は純米酒であることを指しています。
他に普通酒という名称もありますがどのように違うのでしょうか。
3.1 普通酒とは
米、米こうじ、水及びアルコールを原料とした清酒、もしくは米、米こうじ、水、アルコール、糖類、有機酸及びアミノ酸塩などを原料とした清酒です。
米、米こうじ、水及びアルコール以外は原料とせず、使うアルコールが醸造アルコールで、使用量が一定条件を満たす場合や、精米歩合の違いによっては本醸造、吟醸酒と別の名称で表記することが可能です。
3.2 純米酒とは
米、米こうじ、水のみを原料とした清酒を指します。
普通酒と同じく、精米歩合に違いで名称を変えることが可能です。
普通酒との違いはアルコールが原料に入っているか否かですが、そもそも日本酒ってお酒だからアルコールが含まれていて当然ですよね。
どういうこと?と思われる方もいるかもしれませんが、簡単に言うと発酵の過程でつくられたアルコールか後から入れたものという違い。
わかりづらいかと思いますが、複雑な内容となるので別記事で語らせていただきます。
4 日本酒を買って呑んでみよう
ここまでお付き合いありがとうございます。
皆様のお酒選びに少しでもお役に立てたら幸いです。
今回の記事だけでは日本酒選びに自信が持てない方も多いと思います。
そのようなときは、地酒専門店に行きますと知識豊富な店員さんにお任せするのも良いですね。
専門店なんて言いますと身構えてしまうかもしれませんが、そこは接客と日本酒のプロ、押し売りなどせず、お客様に合わせていろいろ薦めてくれます。
ここで1つだけ頭の片隅にでも残していただきたいことがあります。
ラベルの情報を参考にしようと言いましたが、最も大事なのは日本酒をおいしく楽しむということ。
「このお酒は日本酒度がプラスだから辛いのか。甘いお酒が好きだからやめておこう」、「お米は五百万石だから淡麗だな。雄町のように芳醇でないと合わない」
と情報ばかり気にしていると良酒との出会いを逃してしまいます。
日本酒度がプラスでも甘い日本酒、五百万石を使用しても濃い口。
不思議なことにそんな日本酒もあります。
それは酒蔵さんの技術や創意工夫の賜物ですね。
そこが日本酒の奥深いところ。
そんな面白い日本酒を今後紹介していきます。
懐事情は豊かではないので一升瓶で1500円~3000円のものが中心です。